ヘルスケア関連のM&A
ヘルスケア業界関連(調剤薬局業界、介護業界、病院・診療所、医療機器業界)について、
ここでは広義に、以下について見ていきます。
- 調剤薬局業界
- 介護業界
- 病院・診療所・クリニック業界
- 医療機器業界(医療機器製造、医療機器商社、ヘルステック等)
業界概要、市場動向
調剤薬局
- 1980年代、薬の処方と調剤を分離する医薬分業が始まりました。
- 調剤薬局数は約58,000店あります。
調剤薬局業の市場規模は7.6兆円(調剤医療費)となっており、
技術料が約4分の1、薬材料が4分の3となっています。
介護
- 介護事業は介護保険適用事業と非適用事業に分類されます。
- 民間企業が参入できるサービスは定められており、通所介護、訪問介護、有料老人ホームの他、
サービス付高齢者住宅(サ高住)への参入が多くみられます。
- また、特養、老健、通所リハビリテーション等は、民間参入ではなく、
社会福祉法人等の法人・団体が主体となっています。
- これらの介護保険給付額は、6.3兆円となっていますが、年々拡大しています。
病院・診療所・クリニック
- 「病院」とは、医師または歯科医師が、医業または歯科医業を行う場所であって、
20人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいいます(医療法、略)。
- 「診療所」とは、医師または歯科医師が、医業または歯科医業を行う場所であって、
患者を入院させるための施設を有しないもの、または19人以下の患者を入院させるための施設を
有するものをいいます(同法、略)。
病院と診療所(クリニック)の違いは、「患者20人以上の入院施設」の有無となります。
- 病院の主体は、公的部門と民間部門に分かれます。
公的部門は、国、都道府県、市町村などで、民間部門は、医療法人、社会福祉法人、公益法人、
個人などにとなります。
民間部門における各法人は、その法人種類の根拠法に基づき設立されています。
医療機器業界(医療機器製造、医療機器商社、ヘルステック等)
- 現在の国内の医療機器の市場規模は約3兆円、医療ITは約150億円となっています。
- 日本の国民の医療費支出は約44兆円、政府の医療費の負担は約12兆円と非常に大きいものと
なっており、今後も高齢化社会がますます進む中で医療費の抑制は避けられない課題です。
また高齢化の進展に伴い、成人病疾病患者も増加し、
医薬品やヘルスケア産業そのものの縮小は考えづらい状況であるといえます。
業界再編、M&Aの動向
調剤薬局業界
- 調剤薬局業界は、大手の占有率が低く、小規模事業者が多数存在しています。
- OTC医薬品の販売規制緩和による異業種(ドラッグストア、流通・小売大手等)との競合、
慢性的な薬剤師不足、薬価の段階的引き下げ等、外部環境が厳しい状況にあります。
- 大手薬局チェーンは、積極的に中小事業者の提携先を探索しており、
M&A・業界再編は引き続き活発といえます。
人気業種ゆえ、取引金額の高騰も見られます。小規模事業者は、後継者不在の小規模事業者も、
大手薬局チェーンの傘下に入ることで、店舗の存続を図っています。
介護業界
- 少子高齢化、人口減少によって当該業界が将来的にも安定的に増勢が見込めることなどを背景に、
近年、介護業界において、M&Aは、同業同士、異業種からの参入を問わず活発に行われています。
- 一方、稼働率の引き上げを目指すものの、人材不足によって受入れる体制が整わず、
競争環境激化によって、施設使用者や入居者の確保は難しく、その上、介護報酬改定の影響により
経営が逼迫し、やむを得ず事業の売却を選択する事業者も少なくありません。
- 積極的な買い手企業は、以下の特徴があげられます。
- 拠点エリア、人員の獲得(大手事業者その他介護サービス事業者等による拠点・
エリアの拡大と人員、ノウハウの獲得)
- 新規事業・関連事業の進出(既存事業との親和性が高い住宅・建設系事業者、保険会社、
警備会社などによる既存事業とのシナジー効果を求めたもの)
- 地域医療・介護サービス進出(地域ニーズに密着した医療・介護サービスによる差別化)
病院・診療所・クリニック業界
- 医療法人のM&Aは、様々な規制があるために選択肢が限定され、
再編が十分に進んでいるとは言えない状況にあります。
- 近年、多くの病院・診療所においては、診療報酬改定や消費税増税による影響で
キャッシュフローが悪化しているだけでなく、設備投資や建替え等による
投資コストの増大が重なり、経営が相当に逼迫しています。
- 病院やクリニックの代表医師の高齢化と後継者不在も進んでいます。
- 現状、大手事業者の市場占有率は低く、今後も業界再編の可能性は大い残されており、
行政も地域的な業界再編を進めるべく制度の整備を進めています。
医療機器業界(医療機器製造、医療機器商社、ヘルステック等)
- 大手医療機器事業者(製造、商社)が、規模の経済(スケールメリット)による
競争力の強化を図る中で、中堅中小の医療機器卸売業者の経営環境は厳しさを増しています。
- 大手事業者は、当該事業者の事業領域、強み、地域性の相乗効果を期待し、
M&Aを活発化させています。
また中小事業者は、後継者不在等を理由に、大手事業者の傘下となるなど、
会社や事業の譲渡を進めています。
M&Aの要点・ポイント(主なもの)
調剤薬局業界
- レセプト情報(月次の処方せん枚数等)
- 調剤技術料等、同比率
- 人員体制(薬剤師人数、年齢等、勤続年数、出勤頻度等)
- 処方元医療機関(門前薬局等)(診療科目等)
- 店舗(不動産は自社所有物件か賃借物件か)
介護業界
- 稼働率の状況
- 介護職員の状況、有資格者、入退社の状況等、教育制度等
- 家賃や利用料の設定等
- 介護度や利用料の支払い状況
- 会社財務状況、純資産、借入金の状況
- 入居一時金の状況、管理状況等
- 事業計画、設備投資計画
- 事業用不動産の状況
- 施設立地等(顧客の獲得が見込める立地にあるか)
- 不動産所有状況(自己保有か賃貸か)
病院・診療所・クリニック業界
- 病院、医療法人のM&Aは、営利法人と異なります。
病院類型別、買い手が限定される、経営権の獲得の仕方など、事前の確認と検討が必要です。
- 診察内容(科目)、患者(カルテ)数、スタッフ数、スタッフの引継ぎ可否
医療機器業界(医療機器製造、医療機器商社、ヘルステック等)
- 主要製品の特徴、許認可、販売許可等
- 競合事業者・メーカー等の状況(シェア、差別化等)
- 取引先(病院、診療所の取引数、診療科等)
- 主要取引先の医療機関との関係性、有力人脈
- 有力製品の独占販売権、代理店契約等はあるか(卸の場合)
- 売掛金等の状況(回収サイトが長期化、貸倒懸念等)